ISDNの仕組みとADSLへの影響

ISDN(INSネット64)の仕組み

INSネット64では1契約で2回線使用できるというふれこみの通り、通話に使用できるBチャネル2本と制御用のDチャネル1本で構成されています。(2B+D)
各チャネルの速度はBチャネルが64kbps、Dチャネルが16kbpsとなっています。
INSネット64の加入者宅内(DSUから端末側)では2チャネル分の信号と制御信号を扱うため送信・受信それぞれに192kbpsの速度が必要です。宅内配線は送信用に一対(2本)受信用に一対(2本)の二対(4本)の4線式となっていますので、送受信が独立して同時に可能です。(全二重通信)
しかし、加入者−交換機間(DSUから回線側)はアナログ回線のものをそのまま流用しますので2線式の銅線のため全二重通信(送受信同時に行うこと)ができません。(全二重通信をするためには4線式:上り下り2対の線が必要)
そのためDSUの部分で2線−4線変換が必要になります。欧米ではこの部分にエコーキャンセラ技術を使用し、日本ではピンポン伝送技術(時分割方向制御方式・TCM)を使用しています。
エコーキャンセラ技術では回線側(2線式)の信号には送信・受信双方の信号が重畳されており、送信側は自分が送出した信号をより分け廃棄することで受信信号を取り出します。回路は複雑になりますが回線側で必要な速度(信号周波数帯域)は、ほぼ宅内の速度と同じで済みます。
これに対しピンポン伝送技術(TCM)では回線側の速度を宅内の約二倍(320kbps)とし、時間を分割して送信・受信を交互に行います。すなわち見かけ上全二重通信をしているように見えるわけです。メモリに一時データを蓄積して送信のタイミングで高速送信というデジタル技術の基本を使っているので回路的には簡単ですが、回線側で必要な速度(信号周波数帯域)は宅内の速度のほぼ二倍取ってしまいます。ADSLの話が出なければこれは優れた方法です。
INSネット64では2.5msを1周期として送信・受信(上り・下り)に1.25msずつ割り当てています。このときに使用される信号の周波数帯域は信号速度が320kbpsであるため320kHzとなります。

ISDNとADSLの兼ね合い

ISDNはADSLに干渉するといいますがこれはどういうことでしょうか。上の図のように使用する周波数帯域がかち合ってしまうためためです。
当然1本の回線にISDNとADSLが同居するわけではありませんが、電気通信の特性上、近くにある回線の影響を受けてしまう可能性があるのです。
しかし、ISDN側の仕組みを逆手に取ることでその影響を軽減することが可能です。

ADSLを利用している電話回線の近くにISDNの電話回線が収容されているとします。
長距離を伝送されてきたADSL信号はかなり減衰して加入者宅に到達します。一方ISDNは上記のように1.25msごとに送信・受信を繰り返しています。ISDNの信号も長距離伝送されれば減衰しますので、ISDN利用者の受信のタイミングでは漏話(CrossTalk)によるADSL信号への影響は小さくて済みます。ところが、ISDN利用者の送信のタイミングでは大きな出力の信号が送信されますので、減衰して到達したADSL信号に漏話による大きな影響が出てしまいます。
送信した信号の影響(漏話)が送信側から遠い側(受信側)で現れるのを遠端漏話(Far End CrossTalk : FEXT)、送信側に近い側で現れるのを近端漏話(Near End CrossTalk : NEXT)と呼びますが、利用者側の視点で見れば影響の小さいFEXTのタイミングと影響の大きいNEXTのタイミングとが1.25msごとに交互に現れているわけです。
この交互性に着目し、影響の小さいFEXTタイミングにはデータをたくさん送り、影響の大きいNEXTタイミングにはデータ量を絞って少しでもISDNからの影響を抑えようというのがAnnex Cです。データ量の調整は各サブキャリアに割り当てるビット数を加減することで行い、FEXTタイミングで各サブキャリアにビットを割り当てるビットマップ(Bitmap)とNEXTタイミングで各サブキャリアにビットを割り当てるビットマップを用意して1.25msごとに切り替えるわけです。これをDBM(Dual Bitmap Mode)と呼びます。
Annex Aではビットマップを切り替えるようなことをせず、常にNEXTタイミングのビットマップを使用します。したがって、ISDNの影響の大きい回線では常にビット割当の少ないビットマップで通信することとなり速度が出ないというわけです。
モデムの機能にビットマップ(キャリアチャート)を見る機能があれば、FEXTビットマップとNEXTビットマップを見ることでISDNの影響等を見ることができます。